LOCAL

町のとっておきの場所 横須賀・芦名「浄楽寺」

2026.07.13 月

町のとっておきの場所
Hachiがご紹介する、町のとっておき

横須賀・芦名に、800年以上にわたり地域を見つめ続けてきた象徴的な寺院がある。
鎌倉幕府の有力御家人・和田義盛夫妻の発願により、文治5年(1189年)に仏師・運慶が造像した仏像が起源とされる浄楽寺である。



800年以上、地域を見つめ続けてきた「浄楽寺」



現在、その浄楽寺を拠点に、仏門に生きる道を歩んでいるのが土川副住職である。土川副住職は、もともと東北の生まれ。19歳頃から千葉で事業を始め、21歳には逗子へ移住し、海の家を開業した。やがて飲食業を中心に事業を拡大し約30人の従業員を抱える経営者として活動するようになった。


しかし、現場では人間関係や組織運営の難しさに直面する。思うように人が動かないこと、関係性が変化していくこと、仲間との別れ。そうした経験を重ねる中で、「人によって幸せの感じ方はまったく違う」という気づきを得たことが、大きな転機となった。人生に迷う中で出会ったのが、手塚治虫の『ブッダ』である。この作品をきっかけに仏教への関心が芽生え、結婚を機に出家。その後、京都の知恩院、鎌倉の光明寺、東京の増上寺などで約3年間の修行を重ね、僧侶としての基盤を築いていった。


一方で、宮城で過ごした幼少期の記憶には、寺や神社がごく身近な存在として残っている。
寺社は特別な場所というよりも、生活の中に自然に溶け込んだ場所だった。寺の境内を通って通学することもあったという。そういう意味で仏教は“遠いもの”と感じることはなかった。特に、仙台の定義如来西方寺を参拝した後に食べたあぶらあげや、みそ焼きおにぎりの記憶は、信仰と生活が一体であったことを象徴している。しかし、僧侶として寺院に身を置いたとき、その印象は大きく変わった。本来は生活の中に溶け込んでいたはずの寺が、現代社会ではどこか切り離された存在になっている。そこに感じた違和感が、現在の活動の原点となっている。副住職が目指しているのは、「お寺を地域のHUBとしてつながること」である。

 

仏門に生きる道を歩んでいる土川副住職



その実践の一つには、一般社団法人大地の再生結の杜と連携した境内整備があった。土中環境を整え、水や空気の循環を取り戻すことで、生態系そのものの回復を目指す。寺を単なる宗教施設としてではなく、地域環境改善の起点として捉え直す取り組みである。また、地域活動が本格化するきっかけの一つには、PTAとの出会いがあった。保護者コミュニティ、学校コミュニティでつながった地域の方々との出会いは、その後の活動に大きく影響していく。コロナ禍で祭りなどの地域行事が中止され、人と人とのつながりが希薄になる中、2022年「盆竹灯籠まつり」を開催したことは、地域の再会の場となり、多くの人が集う契機となった。


ご縁に灯りをともすお寺の夕べ
「盆竹灯籠まつり」



さらに現在では、地域食堂「みんなでお寺ごはん」による定期的な場づくりも行われている。地域食堂とは子どもから大人までが気軽に集まり、食事を通じて交流できる場所。学校だけでは得られない学びを地域の大人が提供したり、季節に応じた食を楽しむ場となったりしている。子どものいない移住者にとっても地域との接点となり、サポーターとして関わる人も増えている。

こうした活動は、防災や日常的な支え合いにもつながる、“見えない安全網”としての役割も果たしている。


極楽浄土の荘厳を表現した浄土式の空間



浄楽寺は、800年以上もの間この地にあり続け、仏像とともに地域を見守ってきた存在である。副住職はこれを「地域の記憶装置」と捉え、歴史と人々の営みを未来へつなぐ場としての寺の姿を見つめている。その思想を形にした取り組みの一つが、LOCAL PODCAST「大楠口伝抄~まちのみんながでるラジオ~」である。三浦半島・大楠地区、すなわち久留和・子安・秋谷・芦名・佐島・長坂を舞台に、地域の人々の思いや価値観を「声の記憶」として記録し、1000年後の未来へ手渡すことを目指している。「時空を越える町内放送」ともいえるこの試みは、地域の営みを長期的に残すアーカイブとして位置づけられている。

お寺をもっと身近に感じてもらいたい。


また副住職は、当地の呼び名の由来でもある、三浦半島最高峰の「大楠山」にも目を向けている。山頂からは秋谷や立石海岸、相模湾の夕景を一望できるし、大楠地区からは見えない初日の出を目指して元旦に登る住民も多いという。約1時間程度で登頂できるこの山は古くから大楠の暮らしの中にあったが、現在は遠い存在になりつつある。大楠観光協会会長として、コアメンバーと共に横浜市立大学の学生や大楠地区の学生を巻き込み、山頂のリデザインを行っている。舞台設置や野外フェスなど、自然と文化を融合させた新たな拠点づくりも構想している。800年の歴史を持つ寺院を中心に、地域の声と風景を未来へつないでいくこれらの取り組みは、過去・現在・未来を結ぶ試みとして注目されている。

2025年9月1日からは、運慶作仏像の常時拝観が始まった。かねてより寄せられていた公開の要望に応える形で実現したものである。これらの仏像は、和田義盛夫妻の発願により仏師・運慶が制作したと伝わり、800年以上にわたり受け継がれてきた。現在はすべて国の重要文化財に指定されており、現存する運慶真作22体のうち5体を有する浄楽寺は、全国的にも極めて貴重な存在である。一方で、活断層の影響も懸念されており、仏像を後世へ確実に残すための保存対策や資金確保は大きな課題となっている。副住職は、800年前の鎌倉時代の人々や職人の息遣いを今に伝えるこれらの仏像を、日本文化そのものを象徴する存在と捉え、その継承こそが寺の重要な責務であると考えている。

日本近代郵便制度を整えた前島密の墓



また浄楽寺は、「郵便の父」として知られる前島密翁の菩提寺でもある。郵便制度のみならず、近代文明の立役者として知られる前島密翁のもとには多くの参拝者が訪れる。毎年5月には局長OBによる「前島密翁を称える会」が主催となり、浄楽寺にて墓前祭が催されている。このご縁からか、全国からは供養を希望する「お手紙」が届く。前島密翁のご縁は今でも続いている。

毎年開催される、大楠花まつり



副住職は、「一人ひとりの存在の積み重ねが、地域や世界を形づくっていく」と語る。立場や肩書きにとらわれることなく、多様な人々と関わりながら、目の前にある実践を一つひとつ重ねている。最後に語られた言葉が、静かに余韻を残す。

「ひとりひとりが尊い存在であることは、否定のしようがありません。けれど、顔の見えない誰かにまで思いを寄せることは、簡単なことではない。だからこそ、顔の見えない人を“ひと”として見ること。その感覚が少しずつ広がっていけば、社会はもう少し調和していくのではないでしょうか。」

大楠地域、三浦半島、そしてその先へと続く時間を見つめる副住職のまなざしが印象的な取材であった。




お忙しい中、取材・撮影にご協力いただきありがとうございました。


                                      


DATA

浄楽寺

神奈川県横須賀市芦名2-30-5

TEL:046ー856ー8622

HP

MAP



最後までお読みいただきありがとうございました。

#横須賀 #芦名 #浄楽寺 #和田義盛 #運慶 #鎌倉幕府 #まちづくり #仏師 #リフォーム・リノベーション #葉山リフォーム #横須賀リフォーム #逗子リフォーム #8Hachi

ご質問などございましたら、お気軽にお問い合わせください。
ショールームは完全予約制となっております。ご来店される際はあらかじめご連絡ください。

葉山町・逗子市・横須賀市・鎌倉市のリフォーム、リノベーション
株式会社Hachi
お問い合わせ  Web : https://8hachi.co.jp/contact